医療プレイのススメ-第6回/神田つばき

「最も危険なオナニスト~ボクぐるぢいの編1」

 三和出版の『マニア倶楽部』という雑誌で、読者さんのための電話相談室を担当しています。月に一度、電話で性癖の悩みを聞いて記事を書くこのお仕事、まもなく満三年になります。
 三年のあいだに、ホントに忍耐強くなりました。たいていのことでは怒らなくなりました。

「神田さんはオナニーのときにどんなこと考えてますか?」
「プレイ相手して欲しいんですけど、東北まで来てくれます?」
「金もないし、いろいろ病気持ってるせいか(ど、どんな病気を?!)パートナーが見つからないんで、神田さんの友達紹介してください」

 ハァ?! ハァァァー?!! と、心の中で拳を突きあげっぱなしですが、絶対に怒ったりはしません。これぐらいで怒っていたら身が持たないのです。月に四時間しかない相談時間なので、深刻度の低い相談は手短に切りあげていかないと、電話が受けきれないという事情もあります。

「公衆便所に捨ててある生理用品を舐めたら病気になりますか?」

 うわー、先月も同じこと聞いてきた人だー!

「なります」
「そうですか…(←重病を宣告されたかのようなガックシした声)
じゃあチンコに当ててこすったりするのはいいですか?」

 うぅーっ、そんなにやりたければいっぺんやってみなさいー! ペニスの先をカリフラワーみたいなデザインにしたければ、どうぞ! と、心の中を街宣車に乗った私が叫んで走り回っているのですが、

「それもダメです」

 と、言うにとどめておくのがお互いのためというものです。SであれMであれ、何十年も心の中に押しこんできた性願望は醗酵して匂っちゃっててグズグズに形状を失っていて、ご本人もどこからつまんで捨てていいのかわからなくなっているのですから。荒療治はあまりいい結果を生まないみたいなのです。
 とは言えだいたい5~6回、半年ぐらい電話をかけ続けるとたいていの人の変態願望は治まってくるものです。消えるわけではないのですが、とりあえず洪水状態ではなくなるようです。
 私の基準として、1.命に別状のあること 2.ケガ、病気をする可能性のあること 3.第三者に迷惑をかける恐れのあること については「告白は聞きますが、今後はやめてくださいね」という方向でお話ししています。でも、中には三年間毎月電話してきて、毎月私に止められて、それでも危ないセルフプレイをやめないつわの者がいます。

「また思いついてやったんですよ、自縛して窒息する安全な方法」

 き、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! 窒息さんは毎月必ず電話をかけてくる自虐の入ったS男性です。またですか…。またやったんですか?!

「部屋の中央の柱にラップの端を巻いておいて、伸ばしながらうんと遠くに行くんです」

 窒息さんは地方に家を建てたので、お部屋が広いのだそうです。

「それから、自分の体に巻きつけながら柱の回りをグールグルまわっていくんです。顔からはじめて、最後は足首に行くように計算して」

 け、計算してまでセルフSMするなんて面白い人だなーっ。最初の電話をもらったときは、私ものん気に面白がって聞いていました。窒息さんの恐ろしさがわかったのは、二度目の電話のときでした。

「鼻のところは息ができるようにラップをずらしてたんですが、汗で顔にラップが貼りついちゃって呼吸できなくなっちゃって…アヒャ」
 言いながら、さもおかしそうにヘラヘラと窒息さんは笑うのです。何がおかしいんだろう、一歩間違えば死んじゃうのに… これは一緒になって笑っていてはいけない話なのでは、と私はハッとしました。

(以下、次号へ続く)