医療プレイのススメ-第11回/神田つばき

第11回「◆番外編 タコ紹介・裏ヴァージョン(1)◆」

(注:この番外編は下関マグロ氏のコラム「タコ紹介・表ヴァージョン」と対になっています。)

 SM&エロのライターになって五年余が過ぎました。デビューが40歳近かったものですから、若い人ばかりのエロ業界のことをいろいろ教えてくれた方には、足を向けて寝れません。下関マグロさんは、そんな恩人のお一人です。
 ただ、マグロさんは私がこんな尊敬と感謝の念を抱いているとは、夢にも思っていないことでありましょう。何しろ、マグロさんの前でまともに服を着ていたことがない。あるいは、着てはいけないような物を着ていたり。「実に失礼な女だ!」と、マグロさんは怒っているのではないか、と想像しては、妙にマゾ性を刺激されてしまいます…。

 初めてマグロさんにお目にかかったのは、当時マグロさんが住んでおられた四ツ谷のご自宅兼オフィスでありました。いったい、どういう経緯で誰に紹介されて行ったのか、記憶があやふやなのですが、勤め先の銀行の同僚女性と二人でお邪魔したのです。
 『危ない人びと』『下関マグロのおフェチでいこう!』という二冊のご本と「わにわに新聞」をいただいたこともおぼえているのに、この日の記憶がボロボロの虫食い状態なのは、実はワケがあるのです。
 マグロさんという方は、実にお友だちの多い方で、いろんな編集さんやアーティストの方が出入りするお宅は、さながら戦前ヨーロッパの貴族のサロンのようでした。「デパートメントH」を主宰する、ゴッホ今泉さんが遊びに来ていたりして、パンピーな私は驚きと憧れを掻き立てられたものです。
 しかし、貴族は貴族でも、マグロさんのサロンにたむろする方々は変態貴族やフェチ貴族、エロ貴族なのです。普通のエッチな人々を中産階級とするならば、ラバーやおもらしや覗きや… を嗜む彼らは、エロの上流階級なのです。

「ゼンタイフェチっていうエロがあってね、アリスっていう男性がやってるんだけど…」
「全身タイツ?! そんなのあるんですか! 私、着てみたいですー!」

 中産階級どころか、エロに関してはロクに物を食べていない貧民のような私。思わずがっついておねだりしていました。

「あ、じゃあ今電話してあげるよー」

 と、マグロさんはその場でアリスさんに電話をしてくれたのです。

「夜、ゼンタイ持って来てくれるから、もう一度おいで」
「わーい! わーい!」

 と友達も私もおおはしゃぎ、その場はいったん解散になりました。
 有名人なのに気さくでやさしいマグロさん、何て素敵な人でしょう…。アリスさんっていう人はどんな人だろう、名前のとおり、線の細い色白な男性なのかしら…。女の子言葉で話すのかしら…。
 いろんな思いではちきれそうになりながら、人生初のフェチ行為を実行するために、私はその日二度、下関邸へおもむいたのでした。そう、私はまだマグロさんのほんとうの恐ろしさを知っていなかったのです(アリスさんの正体も)。
 そしてこの夜私は、酔ってもいないのに記憶を飛ばすという驚愕の体験をしたのでありました。