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H.A.コンフィデンシャル-第一夜/新井英樹

Posted 2020-07-27

 新井さんは、いいマゾに育つわ」。
新宿二丁目の重鎮のゲイバーで隣に座った
所謂「女王様」に笑われながら言われたセリフ。 その喜びに満ちたような「女王様・鏡ゆみこ」の 笑顔が最初の記憶の断片、ḷれば、そこに 行き着く。
 SMの世界に興味があった訳じゃない。
 女王様の肩書きにすらピンと来なかったはず。
 職業漫画家のオレが「なぜ暴力と性を描くの
 か?」と自問し続けても答えは出ず終いだった
 30年。
「例えば『いま好きな女が別の男に抱かれてる。
 抱いている女が別の男を浮かべてる。長年、
 積み上げて来たものが一瞬で壊れる。自分の
 手で自分を壊す』、そういう身をよじる心の
 揺れを味わいたい。屈辱に塗れたい。性的興奮
 とは別の何かが欲しいんだと思うんスよ」。
 確か、そんな舐めた「身上相談」、「自分捜し」
 への返答が「いいマゾ」予言の高笑いだった。
「あ!やった!今日イチの笑顔を獲った!」と
 誤解したオレをいまのオレが笑う。
間抜けめ!お前に女王様の何がわかる?絡め
獲られたのはお前じゃないのか?
SMど素人が薄っぺらな好奇心で、どこ行く
つもりだ?
30年間、自問したアウトプット「暴力と性」、 インプット「揺れと屈辱願望」という心の在り
処への潜入がSM童貞のオレのミッション。
そのṖ解きの伴こそがイメージ恐怖の館「ユリ
イカ」ではないのか?…なんて、こじつけな
導入、設定、解釈から始めさせてください。
 ○
 みこさんに出会って半年ぐらいしてから
だったかなぁ…「今度、遊びに行ってもいいっ
スか?」のノリでした。
しかし『ユリイカ』、ずいぶんと前から鏡ゆみこ
Twitterで店内、あれやこれやのプレイ・イベ
ントの画像を見ては「なんか…怖いんだけど」 と受け止め、そしてもう一方で「そっちの趣味
もないオレが『オーナーのともだち』って立場
で来店とか、失礼じゃないか…」とも思ってま
して。
…でも、えいやっ!と初訪問。
「新井さん、ごめーん。今日、なんか顔ボロボロ
 でノーメイクだわ」「あ、大丈夫っス」。
 緊張からか、正直一瞬、声の主とゆみこさんが
 定まらず、そうと気付かれぬよう余裕の態度で
 いました。
 いま思えば、メイクどうこうを抜きにして「と
 もだち」の顔と現場の「女王様」の顔の微妙な
 表情・空気感の差異をまだ埋めることができて
 なかったから…の解釈で済ませてる。
 その日はオレの仕事明け。夜も深まった頃の
 ユリイカ入りで来客も引けてフロアに残った
 のはゆみこさん、ラミィーさん、カーペットに
 胡坐をかいて言葉少なに小声で談笑する人の
 良さそうな中年男性、とオレの4人。
 オレは男性を「店の関係業者さんかな?」と思 皆さんご存知のとおり、映画好きのゆみこさん
 とオレはいつもどおり「日常的」な映画談義を
 べちゃくちゃ。
『風と共に去りぬ』からヒロインとは?女と
 は?みたいなテーマで。
 するとオレの左側に座るラミィーさんから 「じゃ始めようか」とのセリフ。
 人の良さそうな男性がはにかむように脱衣し
 始めた。
「ええー?」ですよ、オレは。反面「やはり、そう
 でしたか!」。
 世間がうっすら決める「変態」と「普通」の分類
 病にどこかでオレも感染していたかと思い
 知った瞬間。
 余裕の態度は崩さず右側のゆみこさんとの
 映画トークは続き、チラ見の左側では銘菓ばか
 うけをくちゃくちゃと咀嚼して男性の口に落
 とす「非日常」プレイが進行。
 生 SM プレイ拝見の初体験をスカーレット・
 オハラで流そうとするオレ。
 さらに左側ではローソクが準備され、右側で
『タクシードライバー』トラヴィスは!とかな
 んとか。
 左で着火、右で今村昌平、左から右へ、右へ左
 へ!こころの目がまわる!
 これがSMのローソク!…我慢できない!心
 が聞きたがってるんだ!
「おっ温度っ、どんなもんなんですか?」左右ど
 ちらの女王様に聞いたのかもわからず右のゆ
 みこさんが左へ合流、オレの視点は定まった。
「これが50度、こっちが60度…」の返答。「そー
 でしたか!」素人には新鮮な驚き。
 ローソクといえば日常じゃ仏前・墓前の!ぐら
 いの高温度かと思いきや違ったのか!非日常
 のいろはの「い」すら知らなかった。
 胸から腹、顔へと濃淡のある赤が火から零れ落
 とされていく。
 男性の悲鳴のリズムでもがき動く足が生々し
 く、非日常下の人間の反射・反応にオレの好奇
 心は満たされていく。
 日常下のオレの、目の前の人の職業・生活・人
 間関係、好き嫌い・主義思想・価値観、そして プレイが終わり、ロウ垂れ防止の床に敷かれた
 ペットシートに寝そべっている男性が女王様
 たちから顔面を覆ったロウを剥がされていく。
 現れた表情は紅潮して満足気。
 ゆみこさん「残りは自分でやんな」
 男性「はい」
 ラミィーさんはバックヤードで帰り支度。
 残ってこびりつくロウを、ひとり払い落とす
 男性に、ゆみこさんが一言。
「お前、ちゃんと掃除機かけてけよ!掃除が終
 わるまでがSM !」
 男性「はい」
 着替え終わったラミィーさんが日常的一般人
 女性の姿で「お先にぃ!」。
 掃除を終え、着衣整え世間的一般人に戻った
 男性が清算を済ます。
 店から出て行く際に「また遊ぼーなぁ!」と
 ゆみこさん。 …なんだ、これ?
 SMサロンに残るオレの胸に広がるṖの気分は 「ほんわか」。
 気圧されていたユリイカの壁の緑が妙にやさ
 しく見えてきて「いま、くつろいでいる」と自覚
する。「落ちつく」。 遠い日を懐かしむ脳内回路が起動した。
「家に帰るまでが遠足」「○○くぅん、あーそ
 びーましょー!」「またねー!」。
 我に返って?ふと周りを見れば、ここは遊具に
 ᷓれている。
 あれはこう使おう!これでこうしちゃえ!
 知ってる、オレ、この感覚!!
 車輪付きの椅子、お医者さん道具、振り回す棒、
 野球のバット、ボクシンググローブ、覆面みた
 いなマスク、電気の玩具、壁に掛けられた佃は
 家の裏の公園にあった柳の木みたい!
 ブランコが出来るフック、縄、それに「犬」だっ
 ている! 母の叱る声だって聞こえてくる!
 ここは、こどもの空き地、広場、公園だったの
 か?だとしたら、これは「ごっこ」なの?
 じ ゃ あ、30 年 間 の オ レ の「衝 動」「願 望」を 「ごっこ」にしちゃえばそれは埋められたり
 満たされたりしちゃうの?ここで?
 その時、記憶から完全に消えていたのはゆみこ
 さんの「いいマゾに育つわ!」の高笑い。
 ○
 くして SM 童貞の捜査案件「夜のごっこ
 潜入」は続行されることとなる。
 手探りで声を潜めて語る発見・ご報告、お届け
 させていただきます。HUSH-HUSH 1963年9月15日、神奈川県横浜市生まれ。明治大学を卒業したのち文具
 メーカーに就職するが、1年で会社を辞めマンガ家を目指す。
 1989年、『8月の光』でアフタヌーン四季賞の四季大賞を受賞しデビュー。
 1993年、サラリーマン時代の経験を基に描いた『宮本から君へ』で第38回
 小学館漫画賞青年一般向け部門を受賞。仕事や恋に真剣になりすぎるあま
 り過剰になってしまう新米営業マンを描き高く評価された。
 以降、『愛しのアイリーン』・『ザ・ワールド・イズ・マイン』・『キーチ!!』と立
 て続けに衝撃作を発表。
 2018年には『宮本から君へ』がTVドラマ化、『愛しのアイリーン』が実写映
 画化と、映像化が続いた。そのほか著作に『シュガー』・『RIN』・『キーチVS』 『SCATTER -あなたがここにいてほしい-』・『空也上人がいた』・『なぎさにて』 『KISS 狂人、空を飛ぶ』・『ひとのこ』などがある。2013年頃から超遅咲きの夜の街デビュー。右も左もわからないまま、新宿 を彷徨う。新宿二丁目のともだちのイベントに参加した際、会場に訪れた ゆみこさんを紹介される。
数時間後、朝方の路上でオレ「絶対、ともだちになって!」と大声を出し、い まに至る。
HAコンフィデンシャル1PDFはこちら!!ダウンロードしてね
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