ごきげんよう、密蜂です。
本当はこの春に、東北でのセッションツアーをするはずだったの。
大好きな東北。
前回は冬の始まりに東北ツアーを組みました。毎日夜遅くまで、たくさんのプレイをありがとう。それはそれは、楽しい一週間でしたよ。
また、必ず、行くからね。
どれも素晴らしいひとときだったけれど、青森のAとのセッションは、どこか小説のようだったと記憶しております。現実に、目の前で起きていることなのに、不思議と。
青森は特別寒くて、私はミンクのコートに身を包み、ブーツを鳴らしてホテルへ向かいました。
お部屋に入っても、あぁ、まだ寒い。ランジェリーでプレイ?そんなの寒すぎる。オーバドゥの上から毛皮を羽織って、彼を待ちます。革のソファに腰掛けて、ピンヒールを揺らして。あぁ、寒い。
暫くして、Aはおずおずと姿を表しました。バスルームから出たばかりのAの体からは、ホクホクと湯気が上がっていて。
「初めまして、マーヤ様」
ご挨拶に膝を付き、頭を下げるAの背中には、いくつかの水滴が残っています。
それを目にし、ふと、 面白くない と感じました。
私はそんなに心の狭い人間ではないと思うのだけど、何がそうさせたのか漠然と、面白くない。
曖昧さをそのままに、私はAに最初の命令を下します。ご挨拶の途中だったけれど、関係ありません。
「熱い紅茶を淹れなさい」
運ばれたアールグレイを一口飲み、窓に目を向け、第二の命令を下します。
「外へ出てごらん」
Aはきっと怪訝に思ったでしょうけれど、素直に従いました。窓を開けて、ベランダに立ちます。強い風に雪が混じり、床の霜柱がシャリと音を立てています。
私は直ぐ様、鍵を掛けてやりました。
窓の向こうには、驚いたようなAの顔。それはみるみるうちに、文字通り こわばっていきます。顔だけでなく、体も。
Aから立ち上っていた蒸気は消え、白い息だけが窓を叩きます。先程まで確かにあった水滴は、吹き付ける雪に隠されました。ガクガクと、震えている。
私は毛皮のままソファに凭れ、紅茶を啜り、微笑みました。
「なんて面白いのかしら」
思い出し書き綴って気付きました。小説のようだと感じたのは、マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』を連想したからなのでしょうね。そこに暖炉は無いし、私の肌は大理石とは違うけれど。
本を読むことが好きな私は、時折こうして小説とプレイを結びつけます。中でも朗読は、私が気に入っていることの一つです。
これね、随分前に撮影していたの。ゆみこさんがサンプルをツイートしてから、続きが気になりますというボクがたくさんいるようでした。お待たせ。
朗読をしたのは谷崎の『刺青』。最後のセリフが、最高にゾクゾクするのよ。
フルバージョンも公開します。結末はどうぞ、ボク自身の目と耳で。
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