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PINK-第一回/石田月美

Posted 2021-09-13

PINK 第一回 石田月美
#1正義はわかってくれない

私たち夫婦はとても正しい。 夫と結婚して10 年。 第一子の娘は5歳に、第二子の息子は 3 歳になった。 些細な夫婦 喧嘩はままあれど、平穏無事に暮らしている。

そして、私と夫はセックスをしたことがない。 別に夫のちんぽが入らないをパクっているわけでも、あんな書籍一冊分、ドラマ化されるほどのᷤ葛藤や苦悩があったわけでもないのだが、ないのだ。 子どもは体外受精で授かった。

でもまぁ、書籍化でも狙ってもうちょっと詳しく言うと、夫には身体に障害があり、私には精神に障害があり、セックスをするとなると色々困難なのだ。 それで、めんどくさいからナシで行こうということになった。 あれ、コラム一 本分にもならなかった。もうちょっと続けよう。

夫婦間でセックスがないということは、こっち は全然乗り気じゃないのに無理やりとか起こらないし、最近レスでさとかも子どもがうっかり目撃 !みたいなことも起こらない。 セックスに関する加害者 / 被害者もいなければ、強要も拒否もない。 そう、私たちはとても正しい。

それなのに、この話をすると哀れまれ る。 いやいや、こちとら楽しく暮らしてますから ! と言えば、健気とか頑張ってるとか謎な励ましを受ける。

“夫婦生活”という言葉が、文脈によってはセックスを指すように、どうやら正しい私たちの生活は世間様にとっては可哀想な生活らしい。 謎だ。だって、最近は性的同意とかセックスにま つわる加害 / 被害とか問題になってるんじゃなかったっけ ? セックス無くしちゃえば、全部解決、大団円だよ ? 寧ろ、我が家は最先端じゃない ? これか らNO SEX GOOD LIFE流行るかもよ ? と、私はすっかり流行遅れになったマリトッツォを頬張りながら、超ポリティカルコレクトネスな“夫婦生活”を営んでいる。そんな私が初めてユリイカに足を踏み入れたのはシネイカと呼ばれる恒例の映画好きが 映画を語る会で、そこがたまたまSMサロンだっただけだ。室内に入ると立派な車椅子があって、正しい私はこういうところもバリアフリーが整っているんだなと思った。
オーナー鏡ゆみこさんが、お客さんの隅々まで 除菌スプレーをかけて、来た人を順に座らせて行く。奥のソファーから席を詰めて、次に来た客に車椅子を指差しプレイ用だけど座っちゃいな。楽だよと言った時、私はようやくユリイカがどういう場所か認識した。 たまらずどうやってプレイに使うんですか?と聞くと、ゆみこさんは ん?M 字開脚させて 縛ったりとか?と煙草をくゆらせながら答えた。 そしてシネイカ中、映画話の合間合間に挟まれる幾つもの女王様とM 男さんのエピソードに くらくらしながら、私は帰路に着いた。
このくらくらが何なのか把握出来ないままの身体を抱え、帰りの電車の中で最高だなと 独り言ちたことだけ覚えている。

きっと、世間様の中でマイノリティと呼ばれる 障害者の私は、ユリイカという空間がくらくらするほど心地良かったんだと思う。 背が高くて派手な私は、シネイカ中に他の お客さんから女王様ですか ? と尋ねられ、いや、ノーマルでして・・・すみません・・・と 答えた。今考えると、何で謝ってんだ、自分。 ユリイカでは、ノーマルな方がマイノリティ。 何だよそれ。意味わかんねーよ。語彙矛盾が 過ぎるだろ、なんて今更突っ込みながらも、心地が良くて堪らない。 私は、正しいとか正しくないとか、フツーだとか変だとか、障害者や健常者、個人や社会なんて、ハッキリキッパリ分けられるものじゃないと思ってる。きっと誰もがその両方を併せ持ち、時に引き裂かれ、時に横断しながら生きているのだろう。それが私の“当たり前”で、 だからこそ正しさを“当たり前”に突きつけて くる世間では、ずっと居心地が悪かったのかもしれない。

ゆみこさんが“当たり前”に車椅子をプレイに 使うと言ったこと、変態にもノーマルにも障害者にも“当たり前”に検温し真面目に除菌しまくってる姿、“当たり前”に私を私として付き 合ってくれること、それら全てが私はトクベツに 嬉しかった。いつも、病名で呼ばれて来たから。

ここユリイカは変態たちの共闘の場。世間様の正しいやフツーから外れた者たちが、自覚と共犯意識を持ってプレイに臨む。M男たちは 女王様からの加虐を熱望し、女王様はM男を焦らし高め、望みを超える被虐という快楽を与 える。 私自身はプレイしたことも無いが、ここには 加害と被害なんて、SとM だなんて、単純な 二項対立が存在しないことも少しずつだけど 知るようになった。だって私から見れば、わがままなのは M男さんの方で、M男さんの身体と精神に気を張りながら女王様はむちを打つ。
フツーでいたくない、変わった人だと思われ たいなんて、凡庸な価値観もなく、ただ単に己の快楽と相手との関係性を探る。超高度でハイコンテクストな振る舞いなのに自分ら、 変態っすからと言ってのける。

ユリイカの関係者の方々とは何度かお会いし話させてもらったが、ぶっちゃけ言って毎回惚れる。だからインタビューコラムの寄稿依頼 が来た時はSM の門外漢ですし、特にこれといったフェティシズムも無いですけれど・・・なんてexcuseを枕詞につけながら、何を書こうかどんな話を聞こうか既に興奮していた。ゆみこさんに書けました !と連絡したら早くね ? と苦笑いされた。
だって、みんなフツーにおかしい。ゆみこさんに夏も終わりますね∼なんて世間話を振れ ば、そうだねー。海行って人埋めて∼と返ってくる。そこから私はどんな屈強な男でも絶対に抜けられない人の埋め方というこれから 一度も使うことが無いであろう知識を授かり、 爆笑しながらホッとする。ユリイカの世間話は 世間ではフツーじゃない話で、でもそれはユリイカという世間でのフツーなんだ。
ここには己の快楽のために車椅子を使い、 喘ぎ悦ぶ健常者がいて、それを見て積年の溜飲を下げ解放を得る障害者の私だっている。 もしかしたらこの混沌の中では、関係性や己の立ち位置は流動的に変化するのかもしれない。 痛みと快楽と笑い声と共に。
さぁ、そろそろ幕開のお時間だ。 わからないものが怖いなら、変わることが嫌なのなら、遠慮なく踵を返して頂いて。 世間様の正しさと、むちを振るう女王様。どちらが民に真の喜びを与えるか。見てみたい方だけ、そのままで。私 は、まだちょっとだけ 怖いけど、幕を開けてみようと思う。

それでは、はじまりはじまり。 でも一体、何が?
ウツ婚!!―死にたい私が生き延びるための婚活(晶文社)石田月美 著
https://www.amazon.co.jp/dp/4794972008/
うつ、摂食障害・対人恐怖・強迫性障害など 様々な精神疾患を抱え、実家に引きこもり寄生 する体重 90kg のニートだった著者がはじめた 生き延びるための婚活。 何度も失敗し、くい逃げもされ、それでも 婚活を通じて回復していく経験を綴る傷だらけの物語編と、その経験から得たスキルとテクニックをありったけ詰め込んだ HOW TO 編 の 2 本立て。 ケッコン? 何ソレ、おいしいの ? 笑って泣いて役に立つ当事者はもちろん支援者にも大切な、生きづらさ解体新書。 単行本もKindleも好評発売中 !どうぞお読みください !

全ての悩みは作品である

https://stand.fm/channels/5f6090cff04555115d 7c263e

AV 監督で文筆家の二村ヒトシと、おビョーキ で物 書きの 石田月美 が、皆さんから寄せら れた悩みについてお喋りします。 あなたの悩みを、あなた自身の“作品”とし、 様々な角度から鑑賞する番組です。

毎週金曜夜、放送。 この番組のTwitterDM(@subetehasakuhin) か stand.fm の Letter 機能にてお悩み作品 を募集しています。ぜひ、あなたの " 作品 " を お寄せください! ポンコツ MC・二村と月美のお喋りで解決は しませんが、見え方は変わってくるかも…。

石田月見 1983年生まれの東京育ち。物書き。幼少の頃から周囲と馴染めず、浮き上がった自分を抱えながら過ごす。生き延びるための物語&How to
を綴ったウツ婚!!を2020年に出版。
さまざまな精神疾患を抱えたまま、婚活し、結婚し、不妊治療を経て、現在二児の毋。

シネイカの御三方、新井英樹さん、鏡ゆみこさん、二村ヒトシさんにはお世話になっていて、新井さんには「メンヘラパリピ」と呼ばれるし、ゆみこさんにはSMサロンへの寄稿だ!と飛ばしすぎる月見を「もうちょっとマイルドで」と嗜められ、二村さんにはノールックで「今日もいい女だね〜」とあしらわれている。

「ウツ婚!!―死にたい私が生き延びるための婚活」(晶文社)石田月美 著
https://www.amazon.co.jp/dp/4794972008/

「全ての悩みは作品である」https://stand.fm/channels/5f6090cff04555115d 7c263e

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